物語の冒頭で提示される状況を見たとき、私は一度、読む速度が落ちました。
医療の現場を舞台にしたこのシリーズでは、毎回「それは医学で説明できるのか」という問いが置かれますが、本作ではその前段階として、「そもそも起きていること自体が現実なのか」という引っかかりが残ります。
タイトルが示すとおり、過去に終わったはずの事件が、別の形で現在に割り込んでくる。その違和感を抱えたまま、ページをめくっていく感覚が、読後まで尾を引いていました。

1. 「終わったはず」の出来事が前提に置かれる序盤

この話は、何かが起きてから原因を探すというより、すでに“終わった”と認識されている出来事が前提にあります。
過去の殺人、処理されたはずの人物、決着がついているという共通認識。そこにズレが生じた瞬間から、物語は静かに動き出します。

私はこの序盤で、「事件」というより「記憶」や「記録」に近いものを読まされている感覚になりました。
登場人物たちが共有している事実と、目の前で起きている出来事が噛み合わない。そのズレが、医療ミステリという枠組みよりも先に、不安として立ち上がってきたように思えました。

 

2. 医学的説明にたどり着くまでの遠回り

シリーズの中では、比較的はっきりと医学的テーマが前に出る作品もありますが、本作ではそこに至るまでが少し遠い印象でした。
最初に気になるのは、「なぜ今なのか」「なぜ同じような形なのか」という点で、医学はその後から追いついてくるように感じました。

読んでいる最中、私は「これは本当に医療の話に戻ってくるのだろうか」と何度か考えました。
ですが、登場人物たちの行動や会話の積み重ねによって、少しずつ焦点が絞られていく。その過程自体が、この巻特有の読み味だったように思えます。

 

3. 天久鷹央という存在の置かれ方

本作では、主人公の立ち位置がやや特殊に感じられました。
いつものように断定的に状況を切り取る場面もありますが、それ以上に、「まだ何かが見えていない」という空気が残る場面が多かった印象です。

私は、彼女がすぐに結論を出さない場面に、少しだけ緊張しました。
それは能力が発揮されないという意味ではなく、扱っている題材そのものが、即断を許さない性質を持っているからだと感じました。
この距離感が、物語全体の重さにつながっていたように思えます。

 

4. 過去と現在が重なる構造について

物語の中では、過去の事件が単なる背景としてではなく、現在進行形の問題として扱われます。
それは回想や説明として整理されるのではなく、現在の出来事に食い込む形で現れます。

私はこの構造を追いながら、「過去は終わったものではない」という感覚を何度も意識しました。
読者として知っている情報と、登場人物が信じている事実が少しずつズレていく。そのズレを埋める作業を、無意識にさせられていたように思います。

 

5. 読み終えた位置から考えたこと

最後まで読み終えて、すっきりしたかと聞かれると、私は少し言葉に詰まります。
謎が解かれ、状況は整理されますが、「これで完全に終わった」と言い切れない感触が残りました。

個人的には、このシリーズが好きな人には勧められる一冊だと感じました。
ただし、派手な展開や即効性のある爽快さを求める人には、少し重たく感じられるかもしれません。
過去と現在が絡み合う構造や、「確定していたはずの事実」が揺らぐ感覚に興味があるなら、この巻は印象に残ると思えました。

私は読み終えたあと、この物語を「怖かった」とは言い切れませんでしたが、どこか落ち着かない気持ちが残りました。
それがこの作品を読んだ証拠のようにも感じられて、今も完全には整理できずにいます。


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りん
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