この感想記事では、『多摩湖さんと黄鶏くん』を最後まで読んだ一読者として、読み進める中で引っかかった感情や、読み終えたあとに残った居心地の悪さについて振り返ります。
物語の仕掛けやテーマを「評価」するのではなく、私自身がどこで立ち止まり、どこで納得しきれなかったのかを中心に書いています。

この作品は、登場人物の関係性や語り口の癖をそのまま受け取れる人には強く刺さる一方で、読者側の姿勢をかなり選ぶ作品だとも感じました。
「変わった関係性を描くライトノベルが読みたい」「読後にスッキリしなくても構わない」という人には向いていると思います。

この記事で重視した評価軸

  • 語り口・文体

  • キャラクターの行動や関係性

  • 読後に残る違和感や余韻

以下の感想は、すべてこの3点に沿って書いています。

1. 語り口と距離感の独特さについて

この作品を読み始めてまず感じたのは、語り口の「近さ」と「突き放し」が同時に存在している点でした。
地の文は比較的淡々としていて、感情を過剰に説明することはありません。それなのに、語られる出来事そのものは、読者の倫理観や感情に直接触れてくるものが多いです。

特に印象に残ったのは、主人公が自分の行動や感情を振り返る場面で、そこに反省や後悔の言葉がほとんど添えられないところでした。
「そう感じた」「そうしてしまった」という事実だけが並び、読者がどう受け止めるかは委ねられているように思えました。

私はこの距離感に、読みやすさと同時に居心地の悪さも感じました。
物語に引き込まれているのに、どこかで「これは共感していいのか?」と自分に問い続ける読み方を強いられたからです。

 

2. 多摩湖さんと黄鶏くんの関係性が生む引っかかり

本作の中心にあるのは、多摩湖さんと黄鶏くんの歪んだ関係性です。
二人は明確な役割分担のような関係を築いていて、それが物語序盤から当たり前のものとして描かれます。

黄鶏くんは、明らかに多摩湖さんに振り回されている立場に見えますが、彼自身もその状況を積極的に拒絶しません。
一方の多摩湖さんも、支配的でありながら、完全に無自覚な加害者として描かれているわけではありません。

この「どちらが悪いとも言い切れない関係」が、読み進めるほどに不安を増幅させました。
私は途中から、二人のやり取りを楽しむというより、「この関係をどこまで肯定していいのか」を考えながら読むようになっていました。

特に、同じ構造のやり取りが何度も繰り返される点は印象的でした。
それが物語上の必然だと分かっていても、読者としては「また同じところに戻ってきた」という感覚が残ります。

 

3. 読後に残った違和感と、その正体

読み終えたあと、最も強く残ったのは「納得できなさ」でした。
物語として破綻しているわけではありませんし、伏線や構造にも一貫性はあります。
それでも私は、「きれいに終わった」とは感じられませんでした。

理由の一つは、登場人物たちが最後まで自分の関係性を言語化しきらない点にあります。
読者が期待しがちな「気づき」や「変化」は、はっきりとした形では提示されません。

そのため、この物語を「成長物語」として読むと、肩透かしを食らうかもしれません。
私には、この作品は変化よりも「固定された関係を見続ける話」に近いように思えました。

ただ、その違和感こそが、この作品の読後体験を強く印象づけているとも感じています。
読み終えてからも、「あの関係をどう受け止めるべきだったのか」を考え続けてしまいました。

 

4. どんな人におすすめできるか

『多摩湖さんと黄鶏くん』は、誰にでも気軽に勧められる作品ではありません。
はっきりとしたカタルシスや、分かりやすい感動を求めている人には、正直向いていないと思います。

一方で、

  • 登場人物の関係性そのものを観察するのが好きな人

  • 読後にモヤモヤが残る作品を嫌いではない人

  • 善悪がはっきりしない物語を受け止められる人

こうした読者には、強く印象に残る一冊になる可能性があります。

私自身、この作品を「好き」と即答するのは少し迷います。
それでも、「読んでよかったか」と聞かれれば、間違いなく「はい」と答えると思います。

 

結論:おすすめできるかどうか

『多摩湖さんと黄鶏くん』は、読者を選ぶ作品ですが、刺さる人には深く残る物語だと感じました。
心地よさよりも違和感を大切にしたい人、物語に自分なりの解釈を持ち帰りたい人には、試してみる価値がある一冊です。

逆に、安心して感情移入したい読書体験を求めている場合は、少し覚悟が必要かもしれません。
その点を理解したうえで手に取るなら、この作品は確実に「何か」を残してくれると思いました。

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りん
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