ライトノベル

ラノベ『涼宮ハルヒの驚愕』を読んだ感想

涼宮ハルヒシリーズ第10作『涼宮ハルヒの驚愕』前後編を読みました。第9作『涼宮ハルヒの分裂』の続編です。

「分裂した物語」と明らかにヤバい敵が登場しただけでも壮大なのに、朝倉や黄緑さん、朝比奈さん(大)に国木田に谷口に鶴屋さんまで。これまで出てきたキャラが勢揃いしていて、これが最終巻なんじゃないかと思う物語になっていました。

3冊の超大作ストーリーになっているので、『分裂』も含めて、物語を整理しつつ感想を書いていきます。

2つの世界軸は日常と非日常の二項対立

これまでの作品は、非日常が内包された日常が描かれ続けてきました。(『消失』の世界改変された世界は日常のみだと思います。)

しかし、『分裂』『驚愕』で描かれた2つの世界線は、ヤスミと繰り広げるドタバタな日常のα世界軸と、佐々木たちと世界を取り合う非日常のβ世界軸というように分けられたのかなと思いました。

 

ヤスミが電話をかけてきた理由

β世界軸が本来進む世界軸で、α世界軸は作られた世界軸、という前提で書いていきます。

これは『分裂』のα世界軸の最初の出来事です。β世界軸では佐々木が電話をしてきましたが、α世界軸ではヤスミが電話をかけてきました。『分裂』の分岐点がここであることから、本来佐々木から電話がかかってくるタイミングでヤスミを介入させることで、ヤスミがいる世界軸を作り出したんだと思います。

そもそも、ヤスミを介入させるだけなら世界の分岐は起きないものだと思います。しかし、前提で述べたように、β世界軸は本来進む世界軸であり、その世界軸を変えることができなかった。変えることができなかった、変えたいと思ったのはハルヒのことです。

つまり、変えられない代わりに、β世界軸にはないヤスミを介入させることでα世界軸を作り出すことにしたんだと思います。そして、それを無意識に。

 

世界を分岐させた理由

じゃあなぜ、世界を分岐しないといけなかったのでしょうか。

おそらくそれは、本来進むβ世界軸だけだと何らかの問題を避けることができなかった、からなんだと思います。

β世界軸で明らかになっている通り、佐々木たちはハルヒを殺そうと企てていました。それが実現してしまうと世界が終わってしまいます。それだけでなく、長門に対する攻撃、α世界軸がなければキョンは閉鎖空間に閉じ込められてやられていたかもしれない。

それを無自覚に察知したハルヒは、安全地帯のα世界軸とヤスミという存在を無意識のうちに作り上げたんだと思います。

 

a小泉「実は、自分が薄くなっているような気がするんです」

ちなみに、前提で述べたα世界軸の方が作られたと言った理由は、この小泉のセリフや、α世界軸のみんなは違和感を感じたり、既視感を感じたりしているのにβ世界軸ではそんな素振りが一切なかったからです。

 

ヤスミの存在と作り出した理由

藤原「スケジュールにない規格外の異分子だって?聞いてないぞ」

キョンの危険を感じ取ったハルヒは、無意識にヤスミという存在を作りました。αでできた1週間を用いてキョンやヤスミやSOS団団員たちが何かをしたことで未来人の思惑をはずし、彼の野望を砕くことができました。

 

ハルヒはβ世界軸の危険を無意識に察知しました。そのため、佐々木たちの計画を意識的に止めることができなかった。でも止めたい、そこで、無意識の中で止める術としてハルヒの分身であるヤスミを作り出したんだと思います。

ヤスミの本名は「渡橋泰水」。「わたはし やすみず」と読んで並び替えると「私は涼宮」。これがヤスミの正体です。

長門「知らない方がいい」

小泉「渡橋ヤスミさんは涼宮さんの無意識が実体化した姿です」

ヤスミを作り出してでもキョンに伝えたいことがあったり、長門や小泉に気づいてもらうことを意図して作り出したのかもしれません。

それから、渡橋を逆にすると橋渡。最後にキョンの手を握って、α世界軸とβ世界軸の橋渡しをしました。

 

佐々木の存在

β世界軸のメインは、ハルヒに対する存在である佐々木だと思っていたのですが、想像以上に蚊帳の外という感じがしました。

佐々木「キョン、キミが望むのならば、いつでも涼宮さんの代役を務めてみせよう・・・・と、言いつつなんだが、僕はキミが針の穴ほども望んだりはしないと解っている」

きっと、キョンがハルヒを選んだから、佐々木は関われなかったんだと思います。

佐々木にとってキョンは、親友ではなく好きな人。不器用なりにも精一杯の想いを、でもこの恋にケリをつけるための告白をしました。

 

少なくとも、佐々木さんは悪い人のようには感じませんでした。それゆえに、何も報われずに佐々木さんの出番が終わってしまったことに悲しさを感じてしまいました。

付属の小冊子『涼宮ハルヒの秘話』の短編「Rainy Day」より、個人的に佐々木の好きなシーンがあったので後述します。

 

まとめ

ここまで、当たり前のことをつらつらと書いただけになってしまいました。

後編になってから怒涛の展開で手が止まらないほど読み進めていましたが、なかなかボリューミーで、展開を把握しきれないことが多々ありました。

とはいえ、『分裂』『驚愕』は個人的ベスト3に入る面白さでだったので、涼宮ハルヒが好きな方にぜひオススメしたい作品です。

 

それにしても、世界軸を『分裂』して、オチで収束する物語がまるでGitHubのように感じました。ブランチ切って、マージする、みたいな。(どうしてもこれが言いたかった。)



 

Rainy Day

付属の小冊子『涼宮ハルヒの秘話』の短編「Rainy Day」に、個人的に佐々木の好きなシーンがあったので紹介します。

中学3年生のときのキョンと佐々木のシーンです。

p.28,30,31

佐々木はどうやら胸元を気にしているようで、しきりとブラウスの前を引っ張っている。濡れた服が身体に張り付いているのが気になるのだろう。よく見たら、上半身のほぼすべてから肌色が透けて見えた。
「個人的には雨は好きな気象現象だが、不意打ちで浴びるとそうでもなくなるね。水泳の授業もあったから、おかげでさっぱりしていたのに台無しだよ。今日は仏滅か三隣亡か、それとも天中殺だったのかな」
ただでさえ黒い、みどりの髪が濡れたせいでやけに艶々としている。佐々木は額にたれ多数本の前髪を物憂げにかき上げ、
「ところで、キョン」
やや上目で俺を見つめ、
「あまりこっちを見ないでくれないか」
何でだ?
「……やれやれ」
佐々木は頭を振り、
「キョン。キミは時々忘れるようだが、僕は遺伝子的に紛れもなく女なんだよ。さすがの僕も、こんな姿……解りやすく言うと、下着の下すら露わになりかけているような、破廉恥な身体を人目にさらして平気な顔ができるほど無神経じゃないんだ」
「あ、すまん」
慌てて俺はそっぽを向く。
(中略)
佐々木はまだ胸元を気にしているようで、
「僕の貧相な胸部なんてマジマジと見たところで益にはならないだろう? 岡本さんのならまだしもさ。まったく、本当にやれやれだよ。この雨に対しても、僕自身にもね」
そのセリフの後半部分の意味はよく解らなかったが、とりあえずその場を取り繕おうとしたのだろう、俺は意味もなく空を見上げていた。スコールのくせに雨脚が弱まる気配は当分なさそうだ、なんてことを思っているようなフリをするために。

女性の着替えに意識しなさ過ぎるキョンに佐々木は怒っているように感じるのですが、その反面、異性として少しは意識して欲しいような気持ちもある。

その感じがするこのシーンに、佐々木にも可愛いところがあったんだなあと思えました。

ちなみに、キョンの「やれやれ」が誕生したエピソードらしいです。

ABOUT ME
りん
沖縄から福岡に移住。QA/Webデザイナー/SE/フリーランス/SE人事など。趣味や好きなことをブログにまとめてます。