涼宮ハルヒシリーズ第11作『涼宮ハルヒの直観』を読みました。
2011年に発刊された『驚愕』から9年越しの新作で、短編集です。短編の『あてずっぽナンバーズ』、中編の『七不思議オーバータイム』、長編の『鶴屋さんの挑戦』の3本収録されています。そのうち2本は既に発表されているものを掲載しただけなので、本当の新作は1本だけとかそんなふうには思っておらず、ただ込み上げる歓喜の気持ちで「ハルヒ、おかえり」とそう呟くだけです。
そして今、その新刊を読みました。9年ぶりの新刊を読み終えたばかりの興奮状態であり、頭がオーバーヒート気味ではありますが感想を書いていきます。先に一言お伝えしておくと、超面白かったです。
『涼宮ハルヒの直観』あらすじ
初詣で市内の寺と神社を全制覇するだとか、ありもしない北高の七不思議だとか、涼宮ハルヒの突然の思いつきは2年に進級しても健在だが、日々麻の苗木を飛び越える忍者の如き成長を見せる俺がただ振り回されるばかりだと思うなよ。だがそんな俺の小手先なぞまるでお構い無しに、鶴屋さんから突如謎のメールが送られてきた。ハイソな世界の旅の思い出話から、俺たちは一体何を読み解けばいいんだ?
あてずっぽナンバーズ
『いとうのいぢ画集 ハルヒ百花』で初出の短編。
SOS団のメンバーで初詣に行くお話。
初詣でワイワイしながら小泉からのちょっとしたクイズにキョンが挑戦したり、SOS団の晴れ着イラストを見られたり、キョンとハルヒのカップリングにニヤニヤしたり。
SOS団が帰ってきたという感じの短編で、9年ぶりの空白で薄まった記憶を一瞬で埋めてくれるほど、ハルヒやSOS団に良い再会をさせてくれた内容になっていました。
七不思議オーバータイム
スニーカー文庫30周年記念雑誌のために書きおろされた中編小説。
ハルヒを除くSOS団メンバーで、ハルヒに余計なことを思いつかれる前に先回りして「ハルヒが喜びそうで、かつ無害な学校の七不思議」をでっちあげるお話。
これもまた、SOS団の懐かしい日常編でしたね。学校の七不思議あるあるをネタにして、対ハルヒ用のユーモアを盛り込んでいく会話はそれだけでも楽しくて、「よし、いけるだろう」と思ったところに遅れてやって来た団長の思いもよらない発言にさすがと唸らされたり、小泉の鋭いツッコミや思わせぶりにめくられた百人一首からキョンの心情を考えさせられたりしました。
そして、ここに来て特筆すべきはまさかの新キャラ「ミス研部員」の登場ではないでしょうか。交換留学生である彼女を初登場させて、読者に彼女の基礎情報を与える役割も兼ねた本編になっているかと思いきや、それ以上彼女の事を知ることもないまま本編は終了してしまいます。先に言ってしまうと『鶴屋さんの挑戦』にて再登場するわけですが、自己紹介の時間を省くために前置き紹介という形でここに登場させたのかと気になっていたところで『鶴屋さんの挑戦』に続きます。
鶴屋さんの挑戦
『鶴屋さんの挑戦』は今回唯一の書き下ろし。250ページの長編。
『七不思議オーバータイム』で登場した新キャラを迎え、鶴屋さんが旅行先から送ってきたメールの謎をSOS団と新キャラTの6人で推理する、ミステリー仕立てのお話です。
ミステリー好きであればたまらない仕掛けがたくさん含まれています。ミステリーの不朽の名作の数々や推理における掟などが披露され、それをヒントに鶴屋さんの挑戦を受けることになります。
鶴屋さんから送られてきた3本のメールに隠されたトリック。このトリックを、本編を読み進めながらハルヒたちと一緒に推理していくことになります。推理自体はSOS団の面々が会話しながら少しずつ答えに辿り着くようにできているので、ハルヒたちの言葉をヒントにしながら一緒に推理をすると楽しめるかと思います。
ハルヒや小泉による解答編でなんとか納得が得られたところに来て、そこで思わず「やられた!」と叫びたくなる大トリック(叙述トリック)。
ネタバレを防ぐためにここで書くのを止めたところでそういえば、ハルヒって実はミステリーだったなあと。もちろんSFであり、学園青春モノであり、恋愛小説でもあるけれど、シリーズに共通する要素としてはやっぱりミステリーだなあと。今回はそのミステリーが前面に押し出されていて、純粋にただただ楽しくて、ミステリー好きにはたまらない作品になっているかと思います。
感想まとめ
ミステリーをただトリックとその解決だけに留めておかないのが『涼宮ハルヒの直観』が傑作たる所以であり、ハルヒがハルヒであり続けてくれた様や饒舌で軽妙なツッコミが健在の語り手であるキョン、長門の珍しいふるまいやみくるちゃんの愛らしい言動が実は解決の糸口になっていたり、小泉のミステリー談義や鶴屋さんの底知れなさが改めて明らかになっていったり。時に魅力的なキャラクター小説としてなど、いろんな面で圧倒的な面白さを魅せてくれた『涼宮ハルヒの直観』は、やはり格別の味わいを誇る物語になっていたと感じました。
さて、涼宮ハルヒシリーズがまだまだ続くことを願いながら次回作が刊行されるのを気長に待つことにしますか。