ランニングの本だと思って読み始めたのに、最初から「走る技術」ではなく、「走る前に頭の中で起きていること」が丁寧に言葉にされていて、少し意表を突かれました。シューズを履くまでに考えてしまうこと、今日はやめておこうかと迷う瞬間、走れなかった自分への評価。そういった経験が、私の中ではかなり具体的に思い当たりました。この記事では、「ランニングする前に読む本(田中宏暁)」を最後まで読んだ一読者として、読んでいる最中に感じた引っかかりや、読み終えた後に残った感覚を中心に振り返ります。あらかじめ言うと、走り方を教えてくれる本というより、走れない日の自分を雑に扱わなくなる本だと感じました。

1. この記事で分かることと、向いている読者

この記事で分かること

  • 「ランニングする前に読む本」が何を中心に扱う本なのか(理論より心理寄りかどうか)

  • 走る前に起きがちな迷いを、どんなふうに言葉にしているか

  • 読後に起きた変化(走る/走らないの判断の質がどう変わったか)

  • おすすめできるかどうか(合う人・合わない人)

向いていると思った人

  • ランニングを始めたいのに、走る前の段階で止まってしまう

  • 続けたい気持ちはあるのに、休んだ日の自己嫌悪が強い人

  • トレーニング理論より、「走る前の心の整え方」に興味がある人

合わないかもしれない人

  • 具体的な練習メニューやフォーム改善だけを求めている人

  • 数値や生理学中心の“硬い”トレーニング本を期待している人

 

2. 語り口・文体:叱咤ではなく、同じ場面を一緒に見てくる感じ

私が読みやすいと感じた理由は、励まし方が強引じゃないところでした。本書は「気合で走れ」とは言わず、走る前に出てくる思考のクセ――たとえば、体調とサボりの境界線を探したり、昨日走れなかった自分を引きずったり――を、先回りするように並べてきます。私はその並びを読んでいるうちに、「やる気がない」ではなく「判断材料が散らかってるだけだったのかもしれない」と思えてきました。読者の心を持ち上げるより、いったん机の上を片付けるような文体に感じました。

 

3. テーマの扱い方:走る技術より、走る前の心理の“仕組み”を扱っている

この本の中心は、ランニングの技術ではなく、走る前に起きる迷いの構造です。走る準備を始めた瞬間から、天気・仕事の疲れ・時間の遅さなど、やめる理由は簡単に増えていきます。本書はその「理由が増える過程」を、単なる言い訳として切り捨てず、どうしてそうなるのかをほどいていきます。私にはそれが、ランニングを続けるための小技というより、ランニングと生活をちゃんと繋げ直す作業に思えました。

 

4. 読後の余韻:走る/走らない以前に、迷う時間の質が変わった

読み終えてから、走るかどうかの結論が劇的に変わったわけではありません。ただ、迷っている最中の自分を観察できるようになりました。「私は今、体調の問題として逃げたいのか」「気分の問題として逃げたいのか」と一段階だけ言葉にできると、その日の判断が雑になりにくいと感じました。走る日は走るし、休む日は休む。それでも、休む日が“負け”の感覚になりにくくなったのは、この本の余韻でした。

 

5. 好き嫌いが分かれそうな点:即効性より、整え直すタイプ

一方で、すぐに走力を上げたい人や、メニューを欲しい人には遠回りに感じると思います。扱うのは主に「心の前段階」なので、読んでテンションが爆上がりするタイプの本ではありません。私はそこが良かったですが、ここは好みが分かれると思いました。

 

6. 結論:おすすめできるか

私はこの本を、ランニングを“頑張れない自分”に疲れている人にはおすすめしたいです。走ること自体を強制せず、走る前の自分を整理してくれるからです。ただ、トレーニングの具体策だけを探している人には、別の本の方が満足度は高いかもしれません。ランニングとの距離感を整えたいときに読むと、効き方が大きい一冊だと感じました。


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りん
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