アジャイル開発におけるQAの役割とは?品質を壊さずスピードを上げる現実的な取り組み方
アジャイル開発とQA(品質保証)は、相性が悪いものだと思われがちです。
スプリントが短く、仕様も変わり続ける中で「QAは何をすればいいのか分からない」「テストが追いつかない」「結局、最後にまとめて確認するだけになっている」と感じている方も多いかもしれません。
私自身、アジャイル開発の現場でQAとして継続的に関わってきましたが、最初は同じように戸惑いました。
ただ、いくつかの前提を共有し、判断軸をはっきりさせることで、QAの立ち位置ややるべきことはかなり整理できるようになります。
この記事では、
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アジャイル開発においてQAは何を担う存在なのか
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なぜ従来型のQAのやり方がうまくいかなくなりやすいのか
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現場で無理が出にくかったQAの取り組み方
このあたりを、実務で向き合ってきた立場から、できるだけ噛み砕いて書いていきます。
アジャイル開発の現場でQAとして悩んでいる方、QAとどう関わればいいか迷っている開発・PdMの方に向けた内容です。
1. アジャイル開発におけるQAの判断軸:品質は「後工程」ではなく「チームの継続能力」
最初に、この記事全体で使う判断軸を明示します。
アジャイル開発における品質の考え方は、
「バグが少ないかどうか」ではなく、「チームが継続的に価値を届けられる状態かどうか」
という前提に立っています。
これはアジャイル宣言やスクラムガイドなどで共有されている考え方で、
品質は“最後に検査して作り込むもの”ではなく、
開発プロセス全体に組み込まれているべきものとされています。
この前提に立つと、QAの役割も自然と変わります。
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テスト工程を担当する人
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バグを見つける専門職
というより、
「品質が破綻しにくい開発の進め方を、チームと一緒に作る役割」
に近い存在になります。
この記事では、この判断軸に沿って話を進めます。
2. アジャイルで従来型QAが苦しくなりやすい理由
アジャイル開発でQAが機能しづらくなる理由は、個人の能力不足というより、前提のズレによるものが多いと感じています。
2-1. 「仕様が固まってからテストする」前提が崩れる
ウォーターフォール型では、
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要件定義
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設計
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実装
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テスト
という流れが比較的明確でした。QAは「仕様が固まった後」に品質を確認すればよかった。
一方、アジャイルでは
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仕様がスプリント中に変わる
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仮説検証のためにあえて荒く作る
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次のスプリントで方向転換する
ということが普通に起きます。
この中で「仕様が固まるのを待ってからテストしよう」とすると、
QAは常に後手に回り、追いつけなくなりやすいです。
2-2. QA=テスト担当、という期待が残り続ける
もう一つは、チーム内の認識です。
「QAがいるから品質は大丈夫」
「バグはQAが見つけるもの」
こうした期待が残っていると、
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開発者のセルフチェックが弱くなる
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QAに確認が集中する
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スプリント終盤がテスト地獄になる
という状態になりがちです。
アジャイルの前提と、QAに向けられている期待が噛み合っていないケースは、思っている以上に多いと思います。
3. アジャイルQAの本質的な役割は「品質リスクの見える化」
私が現場で一番しっくりきたQAの役割は、
品質リスクを早く、分かりやすくすることでした。
3-1. すべてをテストしきらない前提に立つ
アジャイルでは、
「全部テストしてから出す」という考え方自体が現実的でないことが多いです。
そのためQAは、
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どこが壊れやすそうか
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どこがユーザー影響が大きいか
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今回はどこまで保証できているか
こうしたリスクの整理を優先します。
私の場合、スプリント計画の段階から
「ここは仕様が曖昧なので注意が必要そうです」
「ここは前回も不具合が出やすかったです」
といった形で、早めに共有するようにしていました。
3-2. テスト結果より「判断材料」を渡す
QAが出すべきものは、
「OK / NG」だけでは足りないと感じています。
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どの観点は見られていて
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どの観点はまだ不安が残っているか
この情報があるだけで、
リリース判断やスコープ調整がしやすくなります。
品質を守るというより、
品質について考える材料を揃える、という感覚に近いです。
4. 実務で効果があったQAの取り組み方
ここからは、私が実務で比較的うまくいったと感じている取り組みを紹介します。
すべての現場に当てはまるとは限りませんが、判断軸の具体例として読んでもらえればと思います。
4-1. スプリント前半からQAが関与する
テスト工程を後ろに置くのではなく、
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要件の確認
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受け入れ条件のすり合わせ
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想定される異常系の洗い出し
このあたりにQAが早めに関わるだけで、
後半の手戻りはかなり減りました。
「テストのため」ではなく、
作る前に壊れにくくするための関与だと思っています。
4-2. テスト設計を“軽く”共有する
詳細なテストケースを完璧に作るより、
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どんな観点で見るか
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何を今回は捨てているか
を、簡単なメモや口頭で共有する方がうまく回ることも多かったです。
これによって、
開発者側も「どこに注意すればいいか」が分かりやすくなります。
4-3. 自動化は「守りたいところ」から
テスト自動化についても、
「全部自動化しよう」とすると失敗しやすいです。
私の場合は、
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毎回触るところ
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壊れると影響が大きいところ
こうした守りたい領域を優先していました。
自動化は目的ではなく、
チームの継続性を守るための手段、という位置づけが無難だと思います。
5. QAがいることでチームが楽になる状態を目指す
アジャイル開発におけるQAの価値は、
「バグを見つけた数」では測りにくいです。
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リリース判断がしやすくなった
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品質の話が感情論になりにくくなった
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スプリント終盤の緊張感が減った
こうした変化が出ていれば、
QAはちゃんと機能している可能性が高いと思います。
私自身、
「QAがいると安心して進められる」
と言われたときに、この役割の意味が腹落ちしました。
6. 結論:アジャイルQAは「品質を作る人」ではなく「品質を考え続ける人」
結論として、
アジャイル開発におけるQAの取り組みは、
品質を保証しきろうとするより、品質について考え続けられる状態を作ることが大切だと思います。
全部を守ろうとすると、QAが苦しくなります。
でも、判断軸を共有し、リスクを言語化し、チームと一緒に考える立場に立つと、
アジャイルとQAはそこまで相性が悪いものではありません。
もし今、
「アジャイル開発でQAとして何をすればいいか分からない」
と感じているなら、
まずはテストの量より、関わるタイミングと視点を少し変えてみるのが安全だと思います。
私も最初は迷いながらでしたが、
この考え方に切り替えてから、現場での手応えはかなり変わりました。